急がない勇気が写した泉の棚田――毎日新聞で伝えたい小焼けの瞬間
心をほどいて、景色の声を聴く。
最近、胸の奥がふっとあたたかくなる出来事がありました。泉の棚田で撮影した写真が、毎日新聞に掲載されたのです。きっかけは、学びの先生・横田秀琳先生からのメッセージ。「泉の棚田に行ってきたよ」という一言に背中を押され、私は夕焼けの気配が色づきはじめる頃に現地へ向かいました。初めての場所では、いきなり名作は生まれにくい――そんな自分なりの約束を胸に、風の向きや稲の揺れ、雲の薄さを確かめながら、ゆっくり歩いて角度を探しました。山古志のライトアップで覚えた“光の残り香”を読む感覚が、ここでも静かに働いてくれた気がします。
暗さのドラマも魅力的ですが、この日は小焼けのやわらかな明るさを田の水面に滑らせたくて、焦らずに待ちました。構図を整え、息を深く吸い、そっとシャッターを切る。その「待つ時間」に、景色と自分が少しずつ馴染んでいくのを感じます。結果として、いくつかの場面が紙面に届き、見てくださる方のもとへ旅立っていきました。写真は、目の前の風景だけでなく、そこに流れていた時間まで運んでくれるのだと改めて思います。
この気づきは、会社の仕事ともやさしくつながります。段取りや現地の下見といった言葉は堅く聞こえますが、たとえば「深呼吸して、まず景色の声を聴く」と言い換えてみる。あわてずに確かめることで、選ぶべき道は自然と静かに浮かび上がります。写真が地域の魅力をそっと照らすように、私たちの仕事も暮らしのリズムを尊重しながら、その土地の物語に寄り添いたい。紙面を通じて「この場所、いいね」と感じる輪が広がれば、地域の誇りの灯が少し明るくなるはずです。
パーパス経営という言葉を私なりに置き換えるなら、「好きな風景を明日に手渡す」こと。派手さより丁寧さ、速さより余白。小焼けを待つ静けさのような時間を、設計や現場にも残しておく。そうすれば、関わる人の表情も景色の表情も、きっとやわらかくなります。
個人的な学びをひとつ。考えることは自分を縛ることではなく、むしろ解放してくれるという実感です。今の自分に必要なことを楽しく想像してみる。すると視界がひらけ、チャンスのほうから近づいてくる気がします。次は朝霧の棚田にも挑戦したい。日々の歩調を少しだけゆるめて、また新しい光に会いに行こうと思います。
最後に、読んでくださった皆さんへ。今日は空の色が変わる瞬間を、ほんの少しの余裕といっしょに眺めてみませんか。急がない勇気が、心にやさしい景色を連れてきてくれます。

