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特別じゃない日々が、いちばん愛しい

「愛すべき凡庸な日常」を読んで

守田 樹 著

私は人間観察が好きだ。特に目的があるわけではない。ただ、人が何気なく過ごす時間や、ちょっとした言葉のやり取りに、妙に心を惹かれてしまう。誰かが笑う瞬間や、ふと黙り込む間(ま)に、その人の物語が見えるような気がする。
人って、ほんとうに不思議で、そして面白い。

守田樹さんの『愛すべき凡庸な日常』を読むと、その「人間っていいな」という気持ちがじんわりと蘇ってくる。どんなに平凡に見える一日も、少し引いて見れば、そこには小さな笑いや、言葉にならない感情のうねりがある。著者はそれを、ユーモアとやさしさを持ってすくい上げていく。ときに少し皮肉を交えながらも、最後には必ず笑って終わる。その軽妙なリズムに、思わずこちらも笑みがこぼれた。

タイトルにある“凡庸”という言葉は、一般的には退屈の代名詞のように扱われる。けれど、この本では逆だ。凡庸とは、誰もが持つ「普通に生きる力」なのだ。特別なことがなくても、ちゃんと呼吸して、食べて、笑って、時に落ち込みながらもまた立ち上がる。日々の繰り返しこそが、人生の根っこを支えている。著者はそのことを、淡々とした筆致で、しかし確かな温度をもって描いている。

読んでいて何度も笑ってしまった。守田さんの文章には、“大げさに語らない”強さがある。深刻なテーマを扱っていても、どこか肩の力が抜けている。その自然体が心地よく、まるで日向ぼっこをしているような読後感が残る。人の弱さや不器用さを笑いながら受け止めてくれるようで、「それでいいんだよ」とやさしく背中を押される。

特に印象的だったのは、日常の中に潜む小さな奇跡へのまなざしだ。たとえば、朝の光がカーテン越しに差し込む瞬間、コーヒーの香りがふっと立ち上る時間、沈黙の中に漂う安心感。そんな何でもない場面の中に、確かに“生きている”という手触りを見つけている。著者はそれを理屈で語らない。ただ、笑いながら「ほら、ここにあるでしょ?」と示してくれる。その感覚が心地よく、どこまでも自然だ。

読み終えてスマートフォンの画面を閉じたとき、日常の風景が少し柔らかく見えた。朝の空気の透明さや、何気ない会話のぬくもりが、心に静かに残る。守田さんが描く世界は、派手さはないが、どこか懐かしく、今を生きる私たちの心をやさしく整えてくれる。

人間って、ほんとうに愛おしいくらい楽しい生きものだ。
『愛すべき凡庸な日常』は、そのことを静かに、けれど確かに思い出させてくれる一冊だった。

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