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「食べること」から始まる、不動産の再定義

「食べること」から始まる、不動産の再定義

「トーコーキッチンへようこそ!」池田峰 著を読んで。

この本は、派手な成功談や即効性のあるノウハウを語るものではない。
「小さな不動産屋が、入居者のために食堂をつくった」——その静かな事実の奥に、仕事とは何か、商いとは誰のためにあるのかという、根源的な問いが横たわっている。
読み進めるうちに、これは飲食や不動産の話ではなく、自分の仕事が、誰の暮らしのどんな場面に役立てるのかを、改めて問い直す一冊なのだと感じた。

トーコーキッチンの対象は、学生に限らず、高齢者や女性、単身で暮らす人たち全体である。
ここで扱われている課題は、「一緒に食べると楽しい」といった情緒的な話だけではない。むしろ、食べるという本来とても大切な行為が、日々の生活の中で面倒になり、負担やバリアになってしまっている現実に、真正面から向き合っている点が印象的だった。

献立を考え、買い物に行き、調理し、後片付けをする。
一人暮らしであればあるほど、食事は「楽しみ」よりも「作業」になりやすい。トーコーキッチンは、その生活上のハードルをそっと下げ、「きちんと食べる」ことを無理なく日常に戻そうとしている。
この視点こそが、結果として人と人を緩やかにつなぎ、場を生み出しているのだと感じた。

印象的だったのは、カードキーによる利用者限定の仕組みだ。誰でも自由に入れるわけではないが、所有者と一緒なら友人も利用できる。この「少しだけ閉じている」状態が、特別感を生み、同時に興味や話題性を生む。
外からはノブが見えるのに鍵がかかっている。その違和感が「なんだろう?」という疑問を生み、それ自体が宣伝になっている点も非常に巧みだと感じた。

また、年末年始の4日間を除き年中無休、朝8時から夜8時まで営業し、朝食100円、昼夜500円という価格設定にも驚かされた。普通であれば赤字になりかねないが、それでも続けている。その結果、空室率1.5%という、一般的な不動産業では考えられない数字を実現している。
管理業務を担うだけの会社でありながら、オーナーになりたい人が集まり、入居者・オーナー・運営側すべてが得をする、見事なウィン・ウィンの関係が成立している。

この本で特に心に残った言葉がある。
「良い企画は脇が甘い」。

ガチガチに決められた企画は面白くない。必要な剪定はするが、あえて抜け道を残す。偶然が入り込む余白、遊びのある構造が、人の創造性を引き出す。
その一方で、1%だけは譲らないルールを設ける。貸切はしない、イベント色を強めない。何のために、誰のためにやっているのか。その軸を決して手放さない姿勢が、この仕組みを支えているのだと感じた。

これまで当たり前だと思っていた常識を一度疑い、流行りすたりとは別の価値をどうつくるか。
トーコーキッチンは、その問いに対して一度きりの答えを示して終わるのではなく、進化し続けることそのものを選び、新たな取り組みにも果敢に挑戦している。
時代の変化を前提とし、学び続け、形を変えながら本質を守る。その姿勢こそが、この取り組みを一過性の成功で終わらせていない理由なのだと思う。

合理性や効率性を追求すれば、デジタル化は自然に進んでいく。しかし、人が集まり、関係が生まれる部分まで効率化してしまっては、本質を失ってしまう。
この本を読み終えたとき、自分自身もまた、変化を学び続ける側でありたいと強く感じた。
静かだが、深く効く。そして、読む者の仕事観を少しだけ更新してくれる。そんな一冊だった。

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