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わかるより、わからないが増えていく豊かさ

深井龍之介・野村高文 著『視点という教養』を読んで

視点を増やすことは、変化の時代を生きる力になる

『視点という教養』を読んで、あらためて感じたのは、世界はひとつの物差しではとても測れないということでした。
量子力学、仏教、歴史学、宗教学、脳科学、教育。こうして並べると一見別々のテーマのようですが、この本ではそれらがすべて「世界をどう見るか」という一点でつながっていました。

私は長く仕事をしてきて、今ほど「多面的情報収集」が必要な時代はないと感じています。
業界の常識も、働く環境も、技術も、お客様の価値観も、想像を超える速さで変わっています。昨日まで通用した見方が、今日はもう通用しない。
そんな時代に必要なのは、何か一つの正解を握りしめることではなく、視点を増やし続けることなのだと、この本を読んで強く思いました。

私たちはつい、物事に名前をつけ、分類し、理解したつもりになります。
けれど本当は、その瞬間にこぼれ落ちるものがある。世界を固定的に理解しようとすればするほど、見えなくなるものがある。
この本は、そのことを何度も静かに教えてくれました。

教養とは、知識を増やして賢く見せることではなく、自分が見えていないものの存在に気づくことなのかもしれません。
本を読み、学べば学ぶほど、自分が無知であることを知らされる。けれど私は、それを不安ではなく、むしろ豊かさだと思っています。
なぜなら、わからないことが増えるということは、それだけ世界に対する解像度が上がっているということだからです。

「卒近代」という言葉が、これからの経営と重なった

この本の中で、私が妙に共感したのが「卒近代」という考え方でした。
近代は、合理性、効率、進歩、成長を大切にして社会を押し上げてきました。その恩恵は間違いなく大きい。けれどその一方で、人間を数字で測り、減点主義で評価し、失敗しないことばかりが重んじられる社会も生んできたのではないかと思います。

経営の現場でも、それはよく感じます。
短期的な利益だけを追えば、もっともらしい答えは出せるかもしれない。けれど、それでは長く続かない。取引先をだまし、従業員を疲弊させ、お客様の思いより会社の都合を優先することが、もし“最適解”になってしまうなら、それはどこかで必ず行き詰まる。
この本の中で語られていた仏教の視点や、長い時間軸で他者との関係を見る視点は、まさに今の経営に必要なものだと感じました。

私は以前から、五十嵐工業は単なる製品作りの会社で終わってはいけないと思ってきました。
製品作りの独自化は、すぐに陳腐化してしまう時代です。だからこそ、物理的なもの作りの会社から、こと作りの会社へ進化したい。
お客様のまだ想像できない半歩先を提案し、時間や場所を超えた働き方や、メタバースやAIも受け入れながら、新しい建築の形、新しい関わり方、新しい価値をつくっていく。
この本を読んで、その方向は間違っていないとあらためて思いました。

「卒近代」とは、近代を否定することではなく、近代の物差しだけでは見きれないものを見ようとする姿勢なのだと思います。
効率だけではなく関係性を見る。
利益だけではなく未来を見る。
競争だけではなく協調を見る。
それはまさに、五十嵐工業株式会社社長提言書の中で私が大切にしたいと思っている感覚と重なります。

学ぶほど、問いが増える。それが未来への力になる

本の中で語られていた仏教の「諸行無常」や「空」という考え方も、とても印象に残りました。
執着に永遠はない。けれど、それは悲観ではなく、変化の中にこそ可能性があるという考え方でもある。
この感覚は、これからのものづくりにも、そのまま通じるように思います。

建築も、住宅も、働き方も、これから大きく変わっていくはずです。
災害に強く、気候変動に対応し、スクラップ&ビルドではない未来の住宅を考えること。3Dプリンター住宅の可能性に挑み、人とIT・AIが融合する時代にふさわしい仕事の形を探ること。
そういう挑戦は、今までの延長線の発想だけでは生まれません。
視点を変え、多面的に考え、まだ見えていない未来を想像する力が必要です。

また、歴史学の章で語られていた「資料をそのまま信じず、背景や立場を読む」という視点も、今の時代にとても大事だと思いました。
情報があふれているからこそ、表面だけを見て判断しないこと。
人の言葉の奥にある思いを想像すること。
お客様の要望も、言葉に出てきた表面だけではなく、その奥にある本当の願いまで受け取ろうとすること。
そういう姿勢がなければ、これからの仕事は本当の意味でお客様に寄り添えないのではないかと思います。

私は、学べば学ぶほど、わからないことが増えていくと感じています。
けれど、その「わからない」は、決してマイナスではありません。
問いが増えるということは、まだ可能性があるということです。
知らないことがあるから、人の声を聞ける。
見えていないものがあるから、挑戦できる。
昨日より今日、今日より明日、世界の見え方が少しずつ変わっていく。
その変化を受け入れ、楽しみながら進むことこそ、これからの時代に必要な教養であり、会社の未来をつくる力でもあるのだと思います。

『視点という教養』は、単に知識を与えてくれる本ではありませんでした。
五十嵐工業はこれから何を目指すのか。
どんな会社でありたいのか。
なぜ多面的情報収集が必要なのか。
なぜ人間とIT・AIの融合を受け入れなければならないのか。
なぜお客様の半歩先を提案する会社を目指したいのか。
その問いに対して、静かに、しかし確かな光を当ててくれる一冊でした。

わかることを急ぎすぎない。
わからないことの中にこそ、未来への入口がある。
そう思えたことが、この本を読んで得た一番大きな収穫だったように思います。
そしてこれからも五十嵐工業は、変化を恐れず、多くの視点を受け入れながら、物作りからこと作りへ、そして未来の建築へと歩みを進めていきたい。
そんな思いを、あらためて強くした一冊でした。


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