アンパンマンは、なぜ日本人の心に深く届くのか

『アンパンマンと日本人』柳瀬博一 著を読んで
アンパンマンは、子どもに人気のキャラクター。
その程度の認識でこの本を読み始めました。けれど読み進めるうちに、アンパンマンは単なるヒーローではなく、日本人の心の深いところに触れる存在として生まれてきたのだと感じました。
私も孫を見ていて実感します。少しぐずっていても、アンパンマンが出てくると表情が変わる。あの力は何なのだろうと前から不思議でした。この本を読んで、その理由が少しわかった気がします。
アンパンマンには、いわゆる派手な強さがありません。悪を徹底的に倒すわけでもない。むしろ、自分の顔をちぎって、お腹をすかせた人に与える。かっこいいというより、どこか不格好です。でも、その“不格好さ”こそが、ほかのヒーローにはない大きな魅力なのだと思いました。
柳瀬さんは、幼い頃から身近な人の死をいくつも経験し、さらに戦争という時代を生きました。その中で痛感したのが、「正義は簡単にひっくり返る」ということだったのでしょう。昨日まで正しいとされたものが、今日はそうではなくなる。そんな時代を見たからこそ、逆転しない正義とは何かを考え抜いた。その答えが、「目の前で困っている人を助けること」だったのだと思います。
アンパンマンの正義は、とても静かです。
大げさな理想ではなく、空腹の人に食べ物を差し出すこと。見返りを求めず、ただ助けること。これは理屈ではなく、人間のもっと根っこのところにある感覚なのではないでしょうか。
この本を読んで、アンパンマンはアメリカ的なスーパーヒーローとは正反対のところから生まれた存在なのだと感じました。力でねじ伏せるのではなく、弱さを引き受けながら人を助ける。そこに、日本人が長く大切にしてきた感覚が宿っているように思います。
しかも、それを赤ちゃんや幼児がちゃんと感じ取っている。言葉では説明できなくても、子どもたちは本能的にわかるのでしょう。だからアンパンマンは、世代を超えて支持されるのだと思います。頭で理解する前に、心が反応しているのです。
私はこの本を読んで、アンパンマンとは「利他性」をもっともわかりやすく形にした存在なのだと感じました。
人を助けること。亡くなった人を悲しみながらも、生きている人に手を差し伸べること。そうした人間の根本にある願いが、アンパンマンというキャラクターに結実している。だからこそ、あれほど長く愛されるのでしょう。
アンパンマンは、決して強さだけの象徴ではありません。
むしろ、傷つきながらも誰かのために差し出せるやさしさの象徴です。
この本を読んで、私はあらためて思いました。
本当に強い人とは、勝つ人ではなく、困っている人に自分の一部を差し出せる人なのかもしれません。アンパンマンが日本人の心に深く根づいている理由は、そこにあるのだと思います。
